静寂な湿原に突如として鳴り響いたのは、49万匹のモクズガニによる“史上最大級の野生動物オーケストラ”の演奏だった。演目のほとんどが泥と水しぶきを用いた即興だというこの奇妙なイベントには、学者や野生動物愛好家までもが困惑と期待の入り混じった視線を寄せている。
今回のオーケストラ結成の発端は、モクズガニ社会内で突如発生した「泥音ブーム」だ。専門家の蟹道楽一朗博士(湿地生物学・67)は、「今年に入ってから湿原全体にモクズガニの間で流行した“泥スラップ”という行為がエスカレートし、最終的に全個体が自発的にリズムを合わせ始めたのです」と冷静に語る。その様子は湿地管理人の石松マグロ助(58)によって動画配信され、SNS上でも大きな話題を呼んだ。
オーケストラの構成は前代未聞である。モクズガニ首席指揮者は、特に厚みのある泥炭地カスタネットを巧みに操り、前列のカニたちは“泥フルート”によって湿原特有のミネラルを震わせる。時には近隣のトウホグマやノムリゴイも飛び入りで合奏に参加し、とくに野生のアメンボ軍団による水面拍手は好評だ。音楽的な一体感は著しく、通称「モクズシンフォニー第1番“ぬめり”」が湿地全体を揺らしたという。
この異様な現象により、周辺の生態系にも混乱が生じ始めている。ミズグモやカワニナたちは自領域の主張を強め、泥炭地の水位も龍ヶ淵伝説以来3.5cm上昇。地元住民のヤナギ原イチヲ(農家・43)は「家の井戸が時々ブルックナーの交響曲ぽく鳴るようになった」と証言する。野生動物の厳格な同時協調を指導するため、国際湿地楽団管理局も出張を表明している。
SNSでは賛否両論だ。「毎朝泥の音で起きるのは至高」「カニに指揮されるトウホグマが人生で一番誇らしそうだ」など絶賛の声がある一方で、「ぬめりの振動で枕元の靴が滑っていく」という苦情も増加中だ。蟹道楽博士は今後の環境影響を見極めるため、世界初となる“泥での交響楽認定試験”の開発を提案している。モクズガニ達の楽団活動は、まだ止まる気配を見せていない。
コメント
まず49万匹ってどう数えたのか冷静に知りたいんだが。湿原カウント職人がいるのか…?
泥と水しぶきのオーケストラとか、もう俺の人生負けてる気がしてきた!明日からカニ目指します。
ブルックナー井戸が誕生するなら、ウチはベートーヴェン水路に進化させてみます。ライバル出現に怯えるカワニナに拍手。
あ~、やっぱり今年は“泥スラップ”流行ると思ってたわ。去年のヨシノボリ太鼓からの流れね、納得。
カニ49万匹の合奏とか夢かと思ったら、現実だったのか……いや違うな、やっぱり夢だな……?🦀💫